遺産承継(整理)業務

遺産承継(整理)業務とは
「相続」に関する相談では、単に不動産の相続登記をするだけではなく、複合的な財産承継(整理)問題が生じます。

たとえば、亡くなった方が所有していた財産に、不動産だけではなく、銀行預金(普通預金・定期預金)、株式、投資信託など、種類の異なる財産が多岐にわたる場合があります。
これら全ての財産を、払戻、口座解約、名義変更など、現実の承継業務を執行し、特定の相続人の手元に現実に入手、承継させ、相続手続きを完結させることが必要となります。

様々な呼び方があると思いますが、以上の業務を、私的には、「遺産承継(整理)業務」と呼んでおります。

 

従来の司法書士の執務姿勢と今後の司法書士の対応
従来から、司法書士は、「相続」の相談を受けると、相続人の方から、相続人、相続財産の内容等を聴取し、被相続人が不動産を所有していた場合、戸籍(除籍)謄本や住民票等の関係書類を収集し、相続登記を完了させます。

相続登記が無事に完了すると、「相続財産のうち、預貯金は各金融機関の窓口に相談して解約や払戻手続をしてください。」なる具合に、不動産登記の処理だけ済ませ、あとは相続人の方に手続きを委ねる執務姿勢を貫いていたことが多かったと思われます。

実際、被相続人の遺した相続財産のうち、預貯金口座も一金融機関程度で、預貯金額も寡少、かつ相続人も少なければ、預貯金払戻の対応をわざわざ司法書士に依頼することは、相続人に余計な費用の負担を生じさせるだけであり、しかも金融機関の手続きも比較的簡単と考えられ、相続人自らが金融機関での手続きを行えば済む話なので、上記対応は適切かと思われます。

しかし、相続財産に預貯金口座が多数存在し、相続人も多数おり、不動産の相続登記だけではなく、銀行口座の預貯金の払戻、解約手続を支援しないと、相続手続の完結という遺産承継(整理)の主要な目的が達成できないケースがあります。このようなケースでは我々は積極的な介入による支援をすべきと思われます。

特に、後述する「相談モデルケース2」のように、被相続人に配偶者、子がなく、兄弟姉妹、甥姪が多数存在するケースが典型的な支援ケースでありましょう。このケースでは、不動産の相続登記をしただけでは、預貯金口座の払戻、解約がそのままになっており、最終的な遺産の承継(整理)が完了しません。

なお、この預貯金払戻、解約手続を、「金融機関の窓口に相談し、相続人全員でやってください。」と相続人に委ねても、そもそも相続人が多数存在し、専門的手続に明るくない相続人だけで手続を進めることは困難と思われます。
しかも、金融機関の内部的な相続手続は、金融機関すべてにおいて手続が微妙に異なっており、その関係書類を作成、完成させることは非常に手間がかかる現状があります。

以上縷々述べてきました通り、これら、遺産承継(整理)業務の完全な終結に向け、司法書士は、不動産登記だけではなく、臨機応変に遺産承継(整理)業務を支援することが必要な場合が生じて参りました。

 

司法書士法施行規則31条
さて、司法書士は、不動産登記、商業登記や簡易裁判所の訴訟代理業務、その他業務について、司法書士法第3条という明文根拠をもとに日常業務を遂行しておりますが、この遺産承継(整理)業務自体を可能とする法的根拠はどこにあるのでしょうか。

それは、以下、司法書士法29条、司法書士法施行規則31条に規定があります。これら業務は、我々の業界では、俗に「規則31条業務」「財産管理業務」と呼ばれています。
平成14年の司法書士法改正によるこの規定を根拠に、今日、司法書士は遺産承継(整理)業務を行うことができることとなりました。

しかし、現在でも、この規定を根拠に司法書士が当該遺産承継(整理)業務を手がけることが可能であることはまだ一般にあまり認知されておらず、一部の金融機関においても「司法書士にそんなことは出来るはずがない。」などと揶揄されている現実があります。残念ながら、我々と関係の近い金融機関自体が業務の障壁になっている現実があるようです。

法令根拠条文
司法書士法第29条

司法書士法人は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うほか、定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。
一 法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める
  業務の全部又は一部
二 以 下 略

司法書士法施行規則第31条

法第二十九条第一項第一号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。
一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務

 

司法書士の遺産承継(整理)業務を行う際の業務上の注意点と司法書士へ依頼するメリット

前の項目で、司法書士が行う遺産整理(承継)業務とその法令根拠を述べました。
それでは、司法書士が遺産承継(整理)業務をする際の業務上の注意点はどのようなものでしょうか。

司法書士は法令上、依頼人の家事(遺産分割など家庭内の事)紛争案件に関し「代理人」を名乗り紛争を解決することはできません。「代理人」を名乗り、他の相続人に対し、直接交渉、直接協議、遺産分割協議を調整することは一切できません。また、紛争案件自体そのものを取り扱うことができません。

たとえば、①相続人間で遺産分割の話が出来ないほど仲が悪い、②相続人全員が感情的になっている。代理人を立てて裁判手続を利用しないと解決できそうにない、③親の介護のことで数年前から仲が悪くなり、親の遺産の分け方で前から揉めていて遺産分割協議ができない、④相続人の一人が遺産を独り占めにしていて遺産分割協議ができない、などというケースがあります。

以上のような場合では、潜在的、顕在的な紛争案件と考えることができますので、司法書士に遺産承継(整理)業務を依頼することが難しいのが現状です。

さて、「紛争案件を取り扱うことができない」、「代理人を名乗ることができない」、それであれば司法書士の遺産承継(整理)業務をする場面がないのではないか?とも思われるかもしれません。
しかし、相続案件は、紛争案件などにならずとも、話し合いで解決できている案件が多いのも現状です。

相続人間で遺産分割に関する話し合いが概ねついていて、手続きをきちんと進めたいだけの案件であれば、司法書士に依頼することで、無用な「紛争状態」を連想、惹起させることもなく、今後の相続人間の関係にもしこりも残さず、円滑かつ粛々と遺産承継(整理)業務を終えることができると思われます。ここに司法書士が遺産承継(整理)業務を受任する最大のメリットがあると思われます。

最後に、司法書士は一方当事者の「味方」「代理人」として遺産分割協議を調整するわけではなく、「公平」「中立」に遺産承継(整理)業務を行いますので、いずれの相続人の味方や肩入れをすることはできないことを申し添えておきます。

 

一般社団法人 日本財産管理協会
遺産承継(整理)業務や遺言執行など、「規則31条業務」や「財産管理業務」を行う司法書士有志が設立した「日本財産管理協会」という一般社団法人があります。
以下、参考資料として当該協会作成の「司法書士による財産管理業務の概要」なる説明書を掲げますので、ご参照ください。

司法書士による財産管理業務の概要(PDF)

 

相続モデルケース
それでは、遺産承継(整理)業務の具体例を見ていきましょう。(以下はほぼ実例です。)

相談モデルケース1
亡くなった夫が遺した財産を調べたら、土地、建物、預貯金、現金と多岐にわたることが分かりました。
これを私たち数人の相続人で相続するため遺産分割協議をしました。
配偶者の私は夫が所有していた不動産と預貯金の一部を相続し、私の子である長男Cは預貯金の一部を相続し、次男のDは現金を相続することにしました。
このように、相続人全員で協議は無事に成立しました。
しかし、実際に不動産は法務局に行って手続きをする必要があるようです。また、預貯金は銀行で手続きをする必要があるようです。
すぐに相続できるのは現金だけでしたので、取得者である次男Dは簡単に相続財産を取得することができました。
しかし、私の不動産と、私とCの預貯金を相続するにはどうしたら良いでしょうか?このような手続ははじめてで、銀行に相談するといっても正直相談しづらいです。
ちなみに、銀行預金だけで数千万円あり、4つの金融機関に預金口座があります。
相談モデルケース2
亡くなったのは私の弟です。
弟は、自宅の建物(借地)と約6,000万円の預金を遺しました。弟は慎重な性格でしたので、ペイオフ対策を行っていて、7つの金融機関に預金を分散していました。
弟の相続人ですが、弟は結婚歴もなく配偶者も子もいません。私を含め兄弟姉妹が7人いますが、その中で2人がすでに亡くなっています。その亡くなった兄弟姉妹には、それぞれ2人づつ甥姪がいます。私が把握しているだけで合計9人の相続人がいます。
相続人9人は、疎遠であるものの、連絡先は知っていて連絡できる状態にはあります。先日、弟の四十九日に、一部の相続人と弟の相続について話し合いをました。
その席で私は、「弟と同居していましたので、不動産は私がもらいたい。」と言ったところ、その場にいた相続人だけですが全員了解してくれました。
そして、その後、財産分けについて一度話し合いの場を設けましたところ、誰がどの財産を相続するか、円満に話し合いがまとまりましたのでほっとしています。
不動産の相続登記と預貯金の払戻、分配をお願いしたいのですが、何から始めたらよろしいでしょうか?
相談モデルケース3
亡くなったのは私の叔父です。
叔父は生涯独身で子もいません。
叔父の兄弟姉妹は全部で8人いましたが、叔父以外全て叔父より先に亡くなっており、私を含め、相続人である甥姪が私を含め全部で6人います。
相続財産はマンション(不動産)1部屋と預貯金があります。金融機関2社にぞれぞれ預金がありますが、それぞれ金額が1000万円以上あります。
甥姪の間で、遺産の分割については話がついていて、私がマンションを相続し、その他相続人で預金を均等に分けることとしています。
銀行に相談に行きましたが、預金額も多く、私も定年退職後、仕事などから遠ざかっていて、このような手続きは難しいです。
相談モデルケース4
亡くなったのは私の夫です。
私たちには子がいません。
夫の財産がかなりあることは知っていましたが、預金がかなりありました。
相続人は夫の兄弟姉妹とその甥姪です。私を含め相続人は全部で9人います。全員が財産を放棄してくれることになりました。
この度、相続手続きをしたいと思いますが、相続人の数も多く、私以外の相続人がみな若干遠方にいて、手続きが大変です。おまけに預貯金が5つの金融機関にあり、提出書類などが全部違っています。手続きをお願いしたいのですが。
相談モデルケース5
亡くなったのは私の妹です。
妹は独身で結婚したこともありませんでした。仕事に熱心でした。最近、体調を崩していました。もともと心臓が弱く、死因は心筋梗塞でした。
妹の兄弟姉妹は姉である私と弟です。しかし弟は妹よりも先に亡くなっていて、子(甥姪)が2人います。なので、相続人は私と甥姪2人の合計3人になります。
妹はマンションを所有していました。その他の財産としては、2つの銀行に合計3,000万円程度の預貯金を持っていました。
先日、これからどうするか、3人で話し合ったところ、不動産は私が相続し、預貯金は甥姪2人で相続することになりました。
相談モデルケース6
私の父が亡くなり、母と私、弟が残されました。
父はかなりの財産を持っていたようで、自宅の土地建物の他に、不動産は山梨と神奈川に持っています。遺産をどのように分けるかはだいたい決まっていて、相続人の間での話も円滑にできますが、何をどうしたら良いのか分かりませんので、不動産を含め財産の名義変更や預金の払い戻しをお願いしたいです。

 

手続の流れ
それでは具体的な手続の流れを紹介します。

①相談を受けます。
通常、相続人間での代表的な立場にある「代表相続人」からの相談がほとんどです。

②相続財産の調査
※相続財産を聴取、調査します。代表相続人から財産内容の聴取をさせていただき、可能な範囲での遺産調査をしていただきます。

戸籍(除籍)謄本及び住民票の収集
※相続人を特定します。

注1)兄弟姉妹、甥姪が相続人と目される場合、この調査で40日から2ヶ月程度を要する場合があります。予めご了承ください。

注2)相続財産額が基礎控除を越えている場合、相続税申告、相続税支払の検討が必要となります。
当事務所と提携関係にある税理士をご紹介のうえ一緒に職務を遂行させていただくことが可能です。

④遺産分割協議書案の作成
※代表相続人と相続人全員の意見を集約し、遺産分割協議書案を作成、相続人の皆様にお知らせします。

⑤署名押印
遺産分割協議書、金融機関の相続払戻用紙などの関係書類に、相続人全員のご署名、実印での押印をお願いします。印鑑証明書のご提出も必要です。
(代表相続人の方のみの手続で済む場合もあります。)

⑥不動産の相続登記の申請
不動産の相続登記を申請完了させます。

⑦代表相続人もしくは事務所の所定口座に、相続財産の対象となるすべての預貯金口座につき払戻送金を完了させます。

⑧相続財産の精算と分配
必要経費(司法書士手数料・税理士手数料・手続に要した実費)を控除し、各相続人に遺産分割協議で予め定めた所定の現金を送金し、遺産の分配を行います。

⑨財産報告
遺産分配の結果を「財産分配報告」として各相続人に報告します。(ケースによる。)

 

手数料と費用のめやす
手数料は概ね以下の合計額となります。支援の程度や、各事案の事情により異なりますことをご了解ください。

①相続による不動産登記申請の手数料及び消費税と実費
 当事務所の手数料、相続登記の登録免許税その他実費

②預貯金等財産総額の金額の1%から2%と消費税
(例)預貯金の払戻が4,000万円であれば、金44万円(税込)~金88万円(税込)

 

事務所から
  1. 司法書士による受託の前提として、相談案件につき相続人間で概ね遺産の分割につき話し合いが決まっている、話し合いが完了している状況が必要です。
    先ほども述べました通り、「相続人の一部が全く手続に協力しない」「数年前から遺産分割を巡り紛争状態にあった」等、手続を進める前提で、紛争が潜在化、顕在化しているなどの障害がある場合、それは弁護士の受託範囲となります。司法書士は、特定の相続人の代理人となり、相手方と協議、交渉することはできません。紛争案件を取り扱うこともできません。
    紛争案件につき、司法書士が過度の介入をすると、弁護士法違反となるため、事前相談により受託可能な案件かどうかを判断させていただきます。
  2. 全部の手続きを依頼された場合の報酬については、少々高額なものになります。
    受託前に事案の概要を把握させていただき、概算のお見積を出させていただくことも可能です。
  3. 案件によっては、相続税の申告を平行して進める必要があります。その場合は、相続税及び税理士への相続税申告手数料が必要になります。

 

 

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